その日、山は終日霧で閉ざされていた。

山頂近くのガレ場からも、他の峰々への眺望は、いっさい利かない。

遠景に浮かぶ、樹影の仄かな連なりが、茫漠とした灰色の境界へと、心地良さげに人を誘う。

一方大気の動きに伴なって、雲の厚みが一瞬薄まると、確と分る程に、光の粒子が空間内に拡散し、

それが雪原の処女地に微かに反射して、色彩の生成時を、その最初期を、僅かながらも演出する。

その反復を繰り返し、やがて山は闇に浸されていく。